「死神執事のカーテンコール」発売と、隣の家に住む空想
2019.05.16
あの家に住んだらどんなだろう? っていうだけなんです。
いきなりなんだよ、って感じですね。
小説を書くときの、最初の発想の話です。
自分の空想の根っこを辿ってみると、大体これ。
日々の通学路、通勤路、保育園の送り迎え、旅先。いろんな場所のいろんな家を眺めては考える。
あの家に住んだら、どんなだろう?
あのかわいらしい玄関ポーチにはどんなひとがやってくるんだろう。玄関のベルはどんな音がして、どんなタイルが貼ってあって、どんな靴が並ぶんだろう。
古びてはいるけど、磨き方の完璧な革靴が、きりりと置いてあるのかもしれない。そしてぼろぼろの靴箱の奥底に、ひしゃげた紙箱に入ったエナメルの子供靴が、大事に大事に息を潜めているのかもしれない。
あのコンクリート作りの家はどうだろう? 蔦がいっぱい這ってるから、一階の窓から見る景色は緑の額縁にはまったみたいに見えるのかもしれない。
二階のだだっ広いテラス、最高! ちょっとしたダイニングテーブルなら出せそうだ。夏は暑いだろうけど、夜なら気持ちがいいかもしれない。ビアサーバーを買ったら自分ちビアガーデンの完成じゃないか。
そんなふうに色々と空想を広げる癖があるんです。
小学生のころかな、中学生になってたかな。
コバルトさんの短編賞に応募したときの作品も、青く塗られた印刷会社の倉庫の中が、水族館になっていたら? という想像から生まれた物語でした。
そして、5/2発売されたこの本もまた、そうやって生まれた物語。
「死神執事のカーテンコール」は、都内のちょっとしたお屋敷を舞台にした物語です。
お屋敷といっても、めちゃくちゃ広くはありません。
戦後……いや、ひょっとしたら戦前、まだ街がゆったりとした雰囲気だったころに建てられた和洋折衷のお屋敷が、徐々に開発されてきた街の中にぽつんと取り残されている。
そんな光景を、都内でもたまに見ることが出来ます。
あそこにひとは住んでいるのだろうか?
住んでいるとしたら、どんなひとなんだろう?
多分メインダイニングは薄暗い雰囲気で、テーブルも何もかもアンティーク……というより、古道具めいている。もう使われていない暖炉の跡なんかもある。
だけど木造のお屋敷だし、窓は大きいのがあるんじゃないか。
そうだ、メインダイニングがサンルームに繋がっているといい。
曇ったガラスの向こうにはうっそうと生い茂った庭の緑が見え、廊下には古びた傘のついた電灯がぶらさがり、じじ、と音を立てている。
なにせお屋敷だから、キッチン、ではなく、厨房、という名のついた部屋が廊下の向かいにある。
このあたりまでは洋風だけれど、サンルームと廊下から行けるメインダイニングの隣の部屋や、増築された二階は畳。
もう、これだけで、私などはうっとりしてしまうのですけれど、どうですか。
どうですか!!
どうですかって迫られても困ると思うけど!
物語はこんなお屋敷の一角を借りた自称探偵の視点で始まります。
探偵が借りているのは、ダイニングの横の洋室。もとはリビングだったところかな。彼はここを今どきリノベして事務所にします。
洋室の奥には独立した小さな和室があって、多分元女中部屋。探偵の寝室はここです。でかい体でちっちゃく寝起きしています。
立派な玄関先には「探偵事務所」の看板を出させてもらっているでしょう。元の住人であるお嬢さまと執事は、ダイニングを挟んで逆側の部屋と、増築された二階に住んでいます。
めったに外に出ないお嬢さまなので、スペースはそれで充分なのです。
……それにしてもこのお嬢さまと執事、何者なんでしょう……?
答えは半分、表紙に書いてありますね!笑
表紙イラストは山田シロさま作。美しいです。
興味をもたれたら是非、手に取ってみてください。
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